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東京地方裁判所 昭和28年(ヒ)73号 決定 1953年9月02日

神戸市長田区大橋町三丁目一番地

申請人

関勝一

小西芳雄

矢頭元信

藤原輝雄

神戸市生田区三宮町二丁目三番地

申請人

田岡和

田岡利

森利治

大岡新一

神戸市生田區三宮町二丁目二十七番地

申請人

石原重治

坂下太郞

大串彌壽一

神戸市兵庫区道塲町千六百七十九番地

申請人

平田近治

東京都世田谷區等々力町一丁目二百九番地

申請人

井ノ口正治

大防市東区北濱二丁目三十一番地

申請人兼右〓請人十三名代理人

古川浩

神戸市須磨区大谷町三丁目三十番地

申請人

井ノ口淸

右申請人兩名代理人辯護士

佐野潔

右の者等の申請にかかる昭和二八年(ヒ)第七三号代行取締役並監査役選任事件について次のとおり決定する。

主文

本件申請は却下する。

理由

本件申請の要旨は、

「申請人等は、東京都千代田区有楽町二丁目九番地日本競輪株式会社の株主であり、申請人井ノ口清は、株主たる外同会社の取締役である。昭和二八年四月四日開催された同会社の臨時株主総会において申請人井ノ口清を除くその他の全取締役及び監査役を解任し、後任取締役及び監査役の選任は申請人古川浩の選考に一任する旨の議決がなされたが、申請人古川浩による右選考は未だ行われず法定の取締役及び監査役の員数を欠いているから、右補充の選任がなされるまでの間一時取締役及び監査役の職務を行うべき者の選任を求める。」

というのである。

会社提出の昭和二十八年四月四日附日本競輪株式会社臨時株主総会議事速記録と題する書面、会社代表者吾妻義一の陳述及び申請人古川浩の審尋の結果によれば、申請人等は、当裁判所が昭和二十八年三月十一日なした許可により、同年四月四日午後一時東京都千代田区丸ノ内丸ビル九階精養軒別室に日本競輪株式会社の株主総会を招集したところ、これに応じて約五十人の株主が出席し定刻に至つたが、何人を議長とするかにつき出席者の間で意見の対立を生じ、議長を定めて議事を進め難い状況に陥つたことを認めることができる。しかして申請人等提出の昭和二十八年四月四日附臨時株主総会議事録と題する書面及び前記古川浩の審尋の結果によれば、この総会の招集者を代表する古川浩は、自ら議長たるべき者たることを主張して譲らないのに対し、会社側とみられる者は、定款第一六条の規定により社長吾妻義一が議長たるべきことを主張して譲らないため、何人が議長たるべきかを決定せず、且つ出席株主の有する株式数の点検をしないままで、右古川浩は自らを議長であるとして、第二号議案(会社の業務及び財産の状況を検査するため株主中より五名の検査役を選任する件)を先議に付した後、第二号議案(取締役井ノ口清を除く他の取締役並に監査役全員を解任し、その後任役員を選任する件)を議に付し反対者の挙手を求め、挙手する者株主榎本容山一人なることを確認し、会社側の所持する委任状(社長吾妻義一が所持していたのであるが、その委任者の所有株式数は確認されていない。)による議決権は放棄された旨一方的に宣言し、後任役員の選任を古川浩に一任することを自ら発議し、総会の承認があつたとしてこの認定の資料に供した議事録を作成したことを認めることができる。更に前記吾妻義一の陳述及び会社提出の昭和二十八年四月四日附臨時株主総会議事録と題する書面及び前記臨時株主総会議事速記録と題する書面によれば、日本競輪株式会社社長吾妻義一は、当初から自己が議長たるべきことを主張し、出席者中これに同ずる者も相当多く諭議が絶えなかつたので、途中から古川浩のなすところはすべて議事でないとして沈黙を守り、古川浩が議事終了を宣言するや間髮をいれず、出席していた榎本容山、橋本光雄等と共同して第一、第二号議案を共に否決した旨の処置をとつた上会社側の議事録を作成したことを認めることができる。

株主総会において、何人が議長になるかは、法律に何らの定がなく、通常定款を以て会社理事者の一人をこれに当らせる旨定めこれに従うものが多い。一般にこの定款の定を不適法とする事由はないから、特別の事情のない限り、この定のある会社の総会がこれによるべきはいうをまたないところである。このことは、総会が会社によつて招集された場合であると、商法第二三七条の規定により株主によつて招集された場合であるとによつて差異あるをみない。唯議案が議長たる者個人に利害ある事項にわたる場合においては、その者は、商法第二三九条第五項の精神により議長を回避するを要しないかという問題か残るのであるが、法律上はこれを消極に解し、この場合でも議決権を行使しない限り、議長を回避するを要しないものとするを相当とする。そのわけは、議長は、その地位において議事の整理にあたるも、議決に加わり、その結果を左右するをえないものである。されば、本件で古川浩が自己が議長たるべきことを主張して譲らなかつたことは誤であるといわなければならない。

しかし、それにもかかわらず、総会が古川浩が議長たることを承認して議事に入り、議決をしたのであるならば、それはそれとして、取扱はまた別になり、必ずしも、議決の存在を否認するにも及ばないわけであるが(決議の方法についての瑕疵の問題が残る場合あることは別として、)本件で自己が議長たることを主張して譲らなかつたといつても、古川浩は、議長として、議事に入るため、出席株主(代理によるものをふくむ。)の所有株数を点検調査したわけではなく、又そのいわゆる表決に当つて賛否の数を出席株主の所有株数によつて確認したわけでもなく、その上古川浩の総会終了宣言後間髮を入れずに別途議事の進行をはかろうとした一派があつたこと前認定の通りであつてみれば、本件総会は、あらかじめ、古川浩が議長たることを承認して議事に入り、又は表決に応ずることによつて古川浩が議長たることを承認して議決をしたものとは、とうてい認めることができない。結局本件総会においては議長の統裁による議事即ち議決がなかつたことになるのである。

よつて、取締役井ノ口清を除く全取締役及び監査役の解任の決議が、成立したことを前提とする申請人等の申請は、理由がないとして却下することとし、主文の通り決定する。

昭和二十八年九月二日

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 小川善吉

裁判官 畔上英治

裁判官 岡田辰雄

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